差し出されない手も
朝、タクシーに乗ったら運転手は忍者さんだった。タクシーではめったに通勤しないのだけど、乃木坂のナチュラルローソンでどうしても買いたいものがあって、マンションを出たら大切なバングルを落としたことに気づいて、探すためにまたマンションに戻って、なんてやっていたら時間がギリギリだったのだ。
乃木坂付近の外苑東通りは、青山一丁目へ向かう方のタクシーが朝はほとんどつかまらないのだが、奇跡の個人タクシーが私の目の前に来た。アジアを中心に世界で忍者パフォーマンスをしている彼は、趣味でタクシー運転手もしている。いつも話が盛り上がって楽しい。そして今回もメーターをしばらく入れ忘れている。笑。
今度いつ逢えるかわからない人と、ひとときお互いの無事と幸せを確認できるこんな時間は宝物だ。私は無意識に時間を過ごしすぎてきた。時間なんて無限にあると思いすぎていた。また逢える。今度はこうしよう、次回はああしよう。今度なんてないかもしれないのに未来にエネルギーを注いできた。つまりは愛をケチっていたのだ。すべて差し出さずに未来に持ち込んでいたのだ。
一昨日の夜、ビルボードライブに向かう道を歩いていた。両足に深くスリットの入ったロングワンピースにピンヒール。風のため、ポケットに手を入れていてもスカートの裾が舞い上がる。懸命に抑えると今度は足元がおぼつかない。ピンヒールのときには男の人の腕が必要だよね。それに空を見上げて満月を探したけれどどこにも見当たらない。
帰り道、ミッドタウンのなかから無理やり手をつないだら慌てていた。だってピンヒールなんだもん。笑。後で、あのとき「きゃー、ヘンタイ!」とか「何するの!破廉恥!」なんて言ってもよかったのよ、と言ったら笑っていたけれど。外に出ると風も止んでいる。人影もまばらな六本木の端っこはとても静かな空気が流れている。歩くペースを合わせてもらったら、ますます静けさが加速する。
角を曲がってしばらく行くと左手に大きな満月が雲が抜け渡った空にまぶしく浮かんでいた。薄暗い街灯の光を覆いつくすような月明かりは、私たちの影まで映し出すようだ。ふたりで月を見上げた。通りには私たち以外誰もいない。この瞬間は二度と来ない。
出会いや別れや、起こってくることすべて、生が差し出すすべてを全開で受け取ろう。差し出された手を今日も握ろう。ついでに差し出されない手も握ってしまおう。明日その手はないかもしれないし。もちろん嫌がられない範囲でね。笑。
今日も最高のエクスタシィを。
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